絞り膨張についてわかりやすく解説します!

あなた
絞り膨張ってどんな変化だろう…イマイチわからん

 

今回は絞り膨張に関して解説していきます。

私は2021年のエネルギー管理士(熱)を受験した際に、課目IIで「絞り膨張」の問題に遭遇しました。

 

その時は、運良く問題を解くことができたのですが、実はちゃんと理解できておらず、ずっとモヤモヤしていました。

 

今回、絞り膨張について勉強する機会があり、自分なりに理解することができましたので、解説していきます!

 

絞り膨張とは

 

絞り膨張とは、絞りによって気体の圧力を低下させることにより、気体が膨張する現象のことです。

また、この膨張の前後で、気体の有するエンタルピーは変化しない(等エンタルピー変化)という特徴があります。

 

この現象は工業的には非常に重要で、蒸気の質を改善したり、エアコンに応用されたりと様々な用途で利用されています。

 

今回は、そんな絞り膨張の仕組みについて解説していきます!

 

絞りとは

 

まず絞りとは、流体が流れている流路を狭くするものをいいます。

 

絞ることにより、流体に圧力損失を発生させ、絞った後の流体の圧力を低くさせます。

 

代表的な絞りはオリフィスです。

 

オリフィスでは、孔が開けられた板(オリフィスプレート)を配管内に挿入し、圧力損失を故意に発生させ、流体の圧力を低くさせます。

ここで最終的に流体が有する圧力P2は、初期の圧力P1よりも低くなり、圧力P2はもとの圧力P1に戻ることはありません。

 

また、減圧弁も絞りの一種と考えることができます。

 

弁の開度によって流路を狭くし、流路の大きさに応じた圧力損失を発生させることで、出側の圧力を一定に保ちます。

 

絞り前後での気体の状態変化

 

次に、この絞り前後での気体の状態変化について解説していきます。

 

絞り前後で気体のエンタルピー(気体自体が有しているエネルギー)は変化しません。

このことを等エンタルピー変化と呼びます。

 

つまり、絞り前の状態を1、絞り後の状態を2とし、エンタルピーをHとすると、$$H_{1}=H_{2}$$

が成り立ちます。

こちらの記事になぜ成立するかを解説しています。

絞り膨張が等エンタルピー変化になる理由をわかりやすく説明します

 


さてエンタルピーHは、内部エネルギーU、圧力P、体積Vを用いて、

$$H=U+PV$$

と表されるため、絞り前後では、

$$U_{1}+P_{1}V_{1}=U_{2}+P_{2}V_{2}$$

が成立します。

 

絞ったことにより、圧力P1は圧力P2に低下してしまいますので、この等式が成り立つためには、体積V2と内部エネルギーU2が変化しなければなりません。

 

気体の場合、圧力が下がると体積は増加するので、圧力がP1からP2に低下することにより、体積はV1からV2に増加し、内部エネルギーU2はこの等式成立のための帳尻合わせのように変化します。

 

この時の体積膨張を、絞り膨張と呼んでいます。

 

ここで、内部エネルギーU2(内部エネルギーは基本的に温度の関数)は帳尻合わせのように変化すると書きました。

気体は膨張すると温度が低下するイメージがあると思いますが、絞り膨張では、気体の種類や状態によって、マイナスの値をとる場合とプラスの値をとる場合、つまり温度が低下する場合と上昇する場合があるのです(ちなみに理想気体では温度変化しません)。

 

この流体の圧力変化に対して温度が変化する現象を、ジュール=トムソン効果と言います。

 

これは、気体が外部に仕事をすることで温度が低下する「断熱膨張」とは全く別物の現象です。

 

とはいえ、多くの気体ではイメージ通り絞り膨張によって温度が低下します。

 

珍しいですが、室温の水素は絞り膨張によって温度が上昇します。

 


私は当初、「絞り膨張によって圧力損失が発生したのに、なんでエンタルピーは保存されるんだろう」とちょっと引っかかっていました。

 

ただ、よくよく考えれば損失した圧力エネルギーは、どこかに消失してなくなったわけではなく、気体の体積膨張と内部エネルギーに変化しただけのことですね。

 

非圧縮性の液体の場合、絞っても膨張することはないので、圧力損失分は全て内部エネルギーに置き換えられるということですね。

(損失した圧力エネルギーが全て液体の温度上昇に使用されたとしても、上昇する温度は大したことない上、実際は配管や弁から放熱しているので、温度上昇は誤差と見なせると思います。)

 

まとめ

 

今回は、地味ですが工業的にも重要な「絞り膨張」について解説しました。

 

まとめると、以下となります!

・絞り膨張とは、絞りによって気体の圧力を低下させることにより、気体が膨張する現象
・絞り膨張前後ではエンタルピーは変化しない(等エンタルピー変化)
・絞り膨張によって気体の温度が変化する現象を、ジュール=トムソン効果という

 

(追記)絞り膨張の応用の一例は以下の記事にまとめています。

絞り膨張で減圧すると乾き度が上がる理由をわかりやすく説明します